




Good Taste, Sharp Linesセンスのいい店と、迷いのない線
オレンジの壁に並ぶ般若の面、通りを見下ろす植物だらけのテラス、奥の部屋に灯るネオン。そして迷いなく線を引く彫り師たち。ホーチミンで出会った、どこを切り取ってもセンスがよく、イカしたタトゥースタジオ。
6月のホーチミン。まとわりつく空気、四方から押し寄せるバイク、日陰を探さずにはいられない暑さ。その日陰は、通りから一段上がった、鉢植えのヤシの向こうにあった。提灯の吊るし方から、スタッフのシャツの文字まで。すべてに誰かのこだわりが行き届いた、タトゥースタジオ。


スタジオの表は、通りに向かって大きく開いていた。長い木のカウンター、回る扇風機、梁から垂れ下がる植物。葉の向こうでは、街がいつも通りに動いている。先に来ていたふたりが、スマホの画面を覗き込んでいた。急ぐ様子は少しもない。



一歩中に入ると、光が変わる。オレンジは影に沈み、入口の上でネオンが灯り、通りの騒がしさが低いうなりに変わっていく。




ひとつの壁は、まるごと面で埋め尽くされていた。角のあるもの、笑うもの、睨むもの。紙の提灯に照らされ、その真ん中に一枚の絵。ここには、たまたまそこに置かれたものがひとつもない。

古い彫刻の入った机で、ひとりの彫り師がもう描きはじめていた。まず鉛筆、次にペン、それから紙の上にステンシルを重ねる。重ねるたびに、図案が少しずつ引き締まっていく。



リングライトの下でも、またひとつの頭が紙に覆いかぶさっている。ブリーチした髪、インクで埋まった腕、短く確かなストロークで動くペン先。一度も顔を上げなかった。





どの作業台にもそれぞれの散らかり方があって、なのに、どれも様になっている。街並みのように並んだインクのボトル、天板に貼り込まれたステッカー、青いキャップと新しい針でいっぱいの引き出し。



片手にスマホの資料、もう片方の手に図案。見て、直して、また見る。いい仕事は、外から見るといつも簡単そうに見える。でも、簡単だったことなんて一度もない。

テラスでは、休憩が始まっていた。スマホ、冗談、回ってくるカメラ。一日の大半を同じ部屋で過ごして、それでもまだ仲がいい人たちの、気の置けないにぎやかさ。



シャツまで抜かりがない。背中にはオレンジの線で描かれた般若。スタジオの名前を背負って、チームのユニフォームみたいに着こなしている。



帰り際、全員でぎゅっと集まって一枚。合わせた手のひら、立てた親指、叫んでいる途中の大きな口。この日のすべてが、そこに写っていた。


腕のいいスタジオはある。センスのいいスタジオもある。ここはその両方で、しかもそれをさらりと身にまとっていた。頭の中をインクでいっぱいにしながら、また暑さの中へ。きっとまた来る。そんな予感とともに。
























