赤い扉と、煙の写真 1赤い扉のそばで。白い部屋。赤い扉と、煙の写真 28緑の髪、黒いニット帽。

Smoke at the Red Door

2024.06ハノイ旧市街のタトゥースタジオ

赤い鉄の扉にもたれる柄シャツ、午後の空気にほどけていく煙、タブレットの上でかたちになっていく一匹の魚。ハノイ旧市街のどこか、名前を知らないタトゥースタジオと、そこにいた人たち。

この場所の名前を、僕らは最後まで知らなかった。ハノイの旧市街では、それは珍しいことではない。看板の上に看板が重なり、店の奥に店が隠れ、この街は誰にも数えきれないほどの扉を抱えている。

そのかわりに覚えているのは、人だ。そして、赤い扉。

赤い扉と、煙の写真 2

彼は、午後のあいだずっとそこで待っていたかのように戸口にもたれていた。百もの小さな四角が描かれたシルクのシャツ、丸い眼鏡、背後には赤く塗られたハノイの古い鉄の扉。この街の人が往来を見るのと同じ目で、彼はカメラを見た。落ち着いて、急がず、少しも動じずに。

赤い扉のそばで。
赤い扉のそばで。
赤い扉と、煙の写真 4

腕を組み、手首までタトゥー。フランス時代の古い鎧戸と新しいネオンが同じ通りに並ぶこの街で、彼はその両方を同時にまとっているように見えた。

ゆっくりと、煙

赤い扉と、煙の写真 5
赤い扉と、煙の写真 6
赤い扉と、煙の写真 7
赤い扉と、煙の写真 8

そして煙。長く吐き出された息が、一瞬顔の前にとどまり、戸口へと流れていく。午後がゆっくりになる。数秒のあいだ、旧市街のすべてが、クラクションもバイクも物売りの声も、どこか遠くにあるように思えた。

最後のひと息。
最後のひと息。
緑の髪、黒いニット帽。
緑の髪、黒いニット帽。
腕を組んで。
腕を組んで。
ひと休み。
ひと休み。
赤い扉と、煙の写真 13

隣には、もうひとりの仲間。黒いニット帽、のぞく緑の髪、着込んで柔らかくなったデニムシャツ。赤を背にした静かな横顔が、通りを流れていくものを眺めている。

赤い扉と、煙の写真 14

中に入ると、戸口からの笑顔。緑の文字が並ぶTシャツ、前腕の小さなタトゥー、彼女にしか見えない何かを持つように組まれた両手。どのスタジオにも、そこを家のように感じさせる人がいる。ここでは、きっと彼女だった。

棚のあいだで。
棚のあいだで。
赤い扉と、煙の写真 16

会話はあちこちで生まれる。棚のそばで、デスクで、予約と予約のあいだで。タトゥースタジオは工房であり、同時に人が集まる場所でもある。友だちがふらりと立ち寄って、思っていたより長く居てしまう、そんな部屋。

赤い扉と、煙の写真 17

部屋の隅で、彫り師が次の図案に取りかかっている。ガラスの上のペン、落とした肩。周りの部屋が、彼のまわりから消えていく。

ガラスの上のペン。
ガラスの上のペン。
次の図案。
次の図案。
鱗をひとつずつ。
鱗をひとつずつ。
赤い扉と、煙の写真 21

画面の上で、一匹の魚がかたちになっていく。鱗をひとつずつ、鰭をひとつずつ。たぶん鯉だ。タトゥーのなかでもいちばん古い物語のひとつ。流れに逆らって滝を登り、やがて龍になる魚。

図案が、かたちになる

赤い扉と、煙の写真 22
赤い扉と、煙の写真 23
赤い扉と、煙の写真 24
赤い扉と、煙の写真 25

彼は立ったまま、座ったまま、部屋を歩きながら描く。図案はどこへでも彼についていく。客が椅子に座るころには、それはもうタブレットの上でひとつの人生を生き終えているだろう。

にぎやかな一角。
にぎやかな一角。
白い部屋。
白い部屋。
赤い扉と、煙の写真 28

そして客。白い部屋での短い打ち合わせ、腕に添えられる手、大きさと位置についての会話。絵が絵であることをやめ、誰かの一部になりはじめる瞬間。

マシンとインク。
マシンとインク。
待つ時間。
待つ時間。
壁のネオン。
壁のネオン。
路地。
路地。
赤い扉と、煙の写真 33

帰り道、路地はまた暗く、石の壁にネオンが青と赤に燃えていた。そのどこか上に、僕らが最後まで知らなかった名前の看板がある。

この場所が何という名前なのか、いまも知らない。たぶん、それでいいのだと思う。旧市街でいちばんいい部屋は、地図で見つけられる部屋ではない。誰かに導かれて入る部屋だ。赤い扉をくぐり、煙のそばを抜けて、長く忘れられない午後のなかへ。

More Footprints

ジャンル

Join the Brotherhood

「BBrthr」は、ひとりのアーティストの旅を超えていく。私たちが探しているのは、ありきたりなビジネスコラボではない。この飾らない平和なムーブメントに共鳴し、世界をもっと面白い場所に一緒に変えていく“共犯者”だ。

あなたの空間、技術、プロダクトを、「BBrthr」が育ててきた熱く国際的なコミュニティと掛け合わせ、新しいカルチャーをつくろう。

Instagramで相談する